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当エントリーは東京に古くからある古銭湯を探訪する銭湯関連エントリーの第3回目です。当エントリー以前に、
【東京湯族(Tokyo 湯 tribe) 【1】古銭湯探訪とその魅力】
【東京湯族(Tokyo 湯 tribe) 【2】北区上十条・久保の湯】
があります。





それでは今回も自分が魅力的だと感じた古銭湯を書き残していこう。今回は昭和初期の銭湯建築が見事に残る文京区の月の湯についてだ。


★『月の湯』

文京区目白台3-15-7

有楽町線「護国寺(ごこくじ)」から徒歩6~7分程度。地図上で見ると都電の「早稲田」も近く見えるが早稲田方面から目指した場合、都内でも有数の勾配をほこる坂道を上るアクセスルートになるため足腰の弱い方にはお勧めしない。また歩くことに抵抗が無いのであれば山手線目白駅から目白通りを20~25分程歩いても行ける。

2010年10月9日現在、火・木・日曜日の週3日のみ営業


文京区目白台『月の湯』


さて、今回ご紹介するのは東京古銭湯の中でも有名な文京区目白台「月の湯」だ。代表的な東京トラディショナル銭湯と言える。俺のような古銭湯初心者は是非訪問しておきたい場所だ。

その日月の湯を訪れたのは日曜の15時50分頃。開店の直前という時間帯であった。まだ陽は落ちていなかったため興奮しながら建物をカメラに収めていく。昭和8年に建てられたという見事な建築は都内の銭湯の中では最古級の建物だそうだ。
改めて建物の正面からツラ構えを見ると2階部分は千鳥破風、玄関上の屋根部分が曲線を描いた唐破風の造りという寺社仏閣を思い起こさせる見た目である。番台などにも見られる意匠なのだが、唐破風にも見られる曲線の造形はこの銭湯を表すイメージだと感じた。懸魚(げぎょ)(※1)はついていない。


月の湯全景


月の湯外観  月の湯外観


月の湯外観  月の湯外観


月の湯外観


もし訪れたのが昼間ならば建物に入る前に外観をじっくり楽しみたい。
都内にある多くの古銭湯は時代に合わせるように改築されたり、古く危険な部分は撤去されたりして建築時そのままの姿が残る物は少ない。例えば昔は銭湯に数多く見られた坪庭(池)スペースは潰されて、その部分はコインランドリーとして利用されている場合も多い。また老朽化した建築材が新たなパーツに交換されているものもよく目にする。そんな中にあってこの月の湯は当時のままの姿が十分に楽しめる見事なものだ。(もちろん月の湯の建物も補修、改築などされているが最小限に留められている)
綺麗なまま残る鬼瓦、木枠のすりガラスや見たことの無い形状の雨どいにもテンションがあがる。

思わずニヤニヤしながらカメラを構えていたところ、1人の女性が銭湯の入り口から表にでてきて10mほど離れた場所にいたヨロヨロと歩いているお爺さんの手をとってゆっくりと歩行を促しながら銭湯の中に入っていった。お爺さんの年の頃は90歳くらいだろうか。この際、女性が俺に向かって「良い写真は取れましたか」と声をかけてくれた。そこからこの女性は銭湯の身内の方でお爺さんは一番風呂を楽しみに来たお客だと理解できた。


月の湯でのヒトコマ


早速のハートウォームな展開にグワッと一気に気持ちが高揚したのだがこのまま銭湯内に入ってしまうとハジけすぎてしまうと思い、30秒ほど自分を落ち着かせてからのれんをくぐる。でもやはり靴箱や年季の入った鍵をみているとまたテンションがあがってしまう。


目白台月の湯エントランス


こんな下駄箱スペースは他に見たことが無い。下駄箱、傘入れを含めてこの空間の味を作っている。


月の湯下駄箱周辺  月の湯下駄箱周辺


月の湯下駄箱周辺  月の湯下駄箱周辺


靴箱に靴を押し込み「こんにちはー」と声をかけて男湯のドアをくぐる。
番台向かって「先ほどはどうも」と挨拶を交わし代金を支払う。いよいよ異空間に足を踏み入れた。


脱衣場に入ってまず目に飛び込んできたのは大黒柱に鎮座する立派な柱時計と高い折り上げ格天井だった。


月の湯の柱時計


「すごい柱時計だな」と感じ、少し視線を落とすとそこには『福助さん』。うわー、ビリビリ来る世界観だ。

天井をしばし眺め、改めて脱衣場全体を見渡す。


月の湯「折り上げ格天井」  月の湯 男湯入り口


月の湯の脱衣場  月の湯の脱衣場


人々は体をの汚れを落とすため戦前からこの場所に通っていたワケだ。家湯の無かった時代に人々がここに集まり様々な会話を交わして交流しあっていた文化があったことを容易に想像できる。そのように時代を回想したい人間も月の湯には集まってくる。そうやって集う人々の想いも受け止めて奥さんは番台にすわっていらっしゃるように見えた。俺が訪れた際もこの建物の造りを写真に収めたいと申し出ると、「お客さんが少ない今だったら」と写真撮影を承諾してくれた。(この日はどうしても銭湯の内部をデータに残したいと考えていたため開店と同時に訪問していた。15時50分にここに来たのはそのような意図から。)俺のような視点でこの月の湯を楽しむタイプの輩の心情も理解してくれていた。気さくな奥さんとはすらすら会話が繋がり、画像をカメラに収めながら世間話を楽しんだ。


月の湯の体重計  脱衣場から見るすりガラス


魅力的な銭湯であればどこでも言えることなのだが、ここでは特にゆっくりと着替えを行いたい。脱衣場の様々なパーツのディテールを楽しみながら雰囲気を噛みしめて服を脱ぎたいからだ。ひとつ面白いのはここには脱いだ服を入れるためのロッカーが無いこと。湯治場や旅館の大浴場を想像すると伝わりやすいと思うのだが、脱いだ服を籐カゴに入れそのカゴを棚に入れておくタイプのもの。これが旧来の江戸銭湯のスタイルなのだろう。目白台という古くからの落ち着いた土地柄のせいもあるのだろうが、番台があるからこそ続けられるスタイルなのだなあと感慨にふける。(番台ならば悪さをする奴がいないかも目を配れるため)例えば近所にある普通の銭湯に行って、携帯電話や財布の入った荷物や着替えをそのまま放置して風呂に入るのには抵抗があるし多分できない。下の縁側を写している画像では常連客の方が着替えを入れたカゴを棚に入れず、床に放置している様が見て取れる。これができてしまうのも月の湯という空間ゆえだろう。


放置された常連さんの着替え  脱衣カゴは棚に入れておく


わくわくする気持ちを抑え、冷静に洗い場へ。風呂場には先客が4人。一番風呂のお爺さんは無言であつ湯に浸かっていた。このコミュニティーの雰囲気をつかもうとしばらく周囲を観察する。六角形のタイルだとか(珍しい)、カランの土台壁の角を削ったタイル張りのスタイルだとか(珍しい)、立てひざでは水面に顔が潜ってしまいそうな深さの小さな浴槽だとか(東京では珍しい)そういったものを楽しんでいると、洗い場で上座にいたおじさんが話しかけてきた。年齢は60前といったところか?俺の使っていたシャンプーセットが100円ショップで買ったものだというところから一気に親近感を抱いてくれたようだ。おじさんとも15分ほど会話。この近所に住んでいて月の湯を使うのは日常とのことだった。このおじさんと会話を続けていると一番風呂のお爺さんが「お先にね」とおじさんと俺に声をかけ、とゆっくりと風呂からあがっていった。やはり常連の方は顔見知りなのだ。銭湯でこのように声を掛け合う文化の輪の中に自分も入れたことについ顔がほころんでしまう。

いつまでもこの雰囲気に呑まれていたいという気持ちからつい長湯をしてしまった。クールダウンを求めて湯からあがる。


月の湯脱衣場


湯からあがれば脱衣場に3~4人の子供。子供は服を脱ぎながら番台の奥さんと話をしている。このノリなら問題ないと俺も横から会話に参加し、5分ほど子供と会話。奥さんは一番風呂のお爺さんにも小学校2年生くらいの子供にも同じように声をかけていた。俺はパンツとTシャツという無防備な格好で縁側のイスに座りクールダウン。


月の湯の庭


残念だがこちらの庭にある池には水が張られていない。水を張って生き物を管理してというケアに手間がかかりすぎてしまうからだろうか、それとも別の理由があるのだろうか。それでも縁側はキチっと手入れされており、日が沈めば軒につられた提灯に灯が入る。提灯の灯りにぼうっと照らされた縁側もまた情緒にあふれて魅力があった。


そういった全ての気遣いや、ビシっと残る建築物は文京区目白台という地域を体現しているようにも思う。洗練されている。


月の湯のことをもっと知ろうとWEBを巡っていたところ、とても雰囲気が出ているスライドショーを見つけたのでURLをご紹介。当ブログよりも断然綺麗な画像だ。
ひとつ気になったのはこのスライドショー内では福助の上に柱時計が掛かっていないこと。どうしてなのだろう。修理に出した柱時計を元の位置に戻したので現在は柱時計があるとか、そういうことだろうか?


■文京区「月の湯」スライドショー (月の湯さんのサイトではありません)
http://picasaweb.google.co.jp/wamezo.event/SSHsQD#slideshow/


ここ月の湯には前エントリーで書き残した『北区上十条・久保の湯』と同じようにガラス広告が残存している。しかもそのコンディションは久保の湯にあるものより良い。綺麗に保っていこうとする意思が読み取れた。


月の湯ガラス広告


少し話がそれてしまうが、東京都小金井市には歴史的に意味のある建造物を移築して残存させる『江戸東京たてもの園』という施設があるのだが、そこには「千と千尋の神隠し」の湯屋のモデルになった銭湯が移築されている(もともとは足立区千住にあった子宝湯)。この子宝湯の内部にも類似した広告があるのだが月の湯のソレは子宝湯のものと比較しても決して見劣りしない。いや、やはり千住の銭湯と目白台の銭湯の違いなのか月の湯のもののほうが洗練されている。(どちらが良いとかどちらが上だとかそういうことではありませんよ)


子宝湯広告
※上の画像は江戸東京たてもの園内にある子宝湯に設置されている看板です。

■江戸東京たてもの園 wikipedia解説
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E3%81%9F%E3%81%A6%E3%82%82%E3%81%AE%E5%9C%92


たてもの園で余生を送る子宝湯の建築は昭和4年(1929年)。ほぼ同時期に建築された月の湯は現在も営業を続けている。この時代の建築はそうやって保存されるくらいに価値があり、職人の思いが込められた建造物だと言うことだ。そういった建物で現在も実際に湯に浸かれるとはなんともありがたい。蛇足となるが子宝湯は昭和63年まで営業を続けていた。正に昭和の時代に生きた銭湯だったのだ。

このような幸せな空間を楽しみながらお約束の「オレインザミラー」で今回もシメ。『月の湯の空間の中にいる俺』を切り取ることができてとても満足。脱衣場の空気感とか花嫁石鹸とかたまんねっすね。今回は庭の灯篭(とうろう)まで一緒に切り取ることができたのでより空間に奥行きができた。


月の湯俺 in the ミラー


正に身も心も温まった状態で満足感に包まれて目白台を後にした。

450円支払えばこういった雰囲気を楽しみながら湯に浸かれるのだ。深いほうの浴槽に中腰で立ちながら過去に思いを馳せよう。個人的にはこの湯に来たらその場を利用している人たちとの会話も楽しみたいと思うが、もちろん一人きりでおとなしく他人とのかかわりを持たずに利用することも可能だ。こちらから「会話したくない空気」を出していれば奥さんも話しかけてこないだろう。銭湯の番台に座っている方というのはそこに集まってくる人々を日々見続けている百戦錬磨。様々な性格の人が集っていることなど百も承知だ。月の湯の奥さんも誰彼かまわず話しかけてくるタイプの方ではない。ゆっくりと自分のペースで月の湯を堪能したい。


最後に営業時間の注意。
本エントリーの冒頭にも書いたが2010年10月現在、月の湯は週3日しか営業されていません。ご訪問の際にはお気をつけください。参考までに現在の営業時間は以下の通り。

・日曜日 16:00~23:00
・火曜日 17:00~22:00
・木曜日 17:00~22:00


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用語解説

※1 懸魚(げぎょ)
破風(はふ)の三角部分にしつらえられた文様板のようなもの。画像は東京の古銭湯でよく見られる蕪懸魚(かぶらげぎょ)。野菜の蕪(かぶ)に似ているところからそう呼ばれるのだそうだ。

懸魚(げぎょ)とは

なお懸魚については以下URLに詳しい。

■懸魚の形態と由来
http://www3.ocn.ne.jp/~toto/index.html
※懸魚研究をされている方の分析ページ。分類された懸魚のデザインがとても美しい。こういう角度から和風建築を見るとそこから受ける印象も少し変わると思います。


その他、専門用語などに関しては前回のエントリー【東京湯族(Tokyo 湯 tribe) 【2】北区上十条・久保の湯】の最後をご確認ください。




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コメント

 銭湯の千住の子宝湯8年間通っていました。

埼玉に越して何時会いにと思っていても、

未だ実現できず。

千住で立派な銭湯は大黒湯ですね。

元勤め先のお得意様でした。
---------- ヤマケン2007 [ 編集] URL . 07/07, 02:18 -----

>ヤマケン2007さん
すごい!実際に子宝湯に通っていらっしゃったのですね。
あの銭湯での入浴が生活の一部であったなんて、
私にとっては非常に羨ましい事です。自分も実際に入ってみたかったなぁ。
コメントをいただいて考えたのですが、
子宝湯に始まり現在も残る大黒湯やタカラ湯のことを考えると、
足立区千住という地域は江戸地域で最も銭湯文化の栄えていた
土地だったんだなぁと痛感しました。
現代では足立区のこの辺り、もしくは墨田区の両国付近にしか
こういった情緒は残っていないように感じます。
こういった文化を実生活の中で体験できたヤマケンさんの
生活サイクルにとてもあこがれます。コメントありがとうございました。
---------- 闊歩マン [ 編集] URL . 07/21, 16:40 -----
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